睡眠障害による体への影響 Part1

睡眠

前回まで、睡眠障害による脳への影響をみてきました。

今回から、睡眠障害による体への影響をみていこうかと。

≪睡眠障害による体への影響≫

睡眠障害による「体への影響」をみていきましょう。

睡眠は長すぎるのも良くない!?

睡眠には「細胞のメンテナンス」という、とても重大な役割があります。

体のあらゆる器官、たとえば消化器系や循環器系が日中滞りなく機能するためにも、睡眠中の再生は不可欠なのですね。

2002年サンディエゴ大学の研究で、平均値に近い7時間睡眠の人に比べて、それより短時間睡眠の人も、逆に長時間睡眠の人も「6年後の死亡率が1.3倍高い」ということがわかっています。

睡眠時間は長くても短くても良くないということですね。

まず短時間睡眠に関しての報告からいくつかみていきましょう。

同様に、睡眠時間が少ないほど、寿命も短くなるという報告もあります。

先進国で死因の上位を占めるのは、高血圧などによる心臓病、肥満、糖尿病などの生活習慣病や認知症、ガンなどの病気であり、その全てで、睡眠不足との関係が指摘されております。

実際、糖尿病や高血圧、うつ病などにかかる確率は、7-8時間前後の睡眠をとっている人が最も少ないこともわかっています。

もちろん睡眠時間だけでなく、睡眠の質が良くなくても、高血圧/ガン/糖尿病/肥満などの不具合が生じやすくなります。

他にも、7-8時間の睡眠をとっている人に比べ、6時間以下の人の9年後の死亡リスクが、男性では1.8倍、女性では1.6倍という高さを示したとの報告もあります。

続いて、長時間睡眠に関しての報告もみていきましょう。

毎晩9時間以上眠る人は糖尿病/肥満/頭痛/ガン/心臓病などを引き起こしやすく、睡眠が9時間より多い人は、7-8時間の睡眠をとっている人に比べ、寿命が短いとの報告があります。

他にも、睡眠時間が10時間以上の長時間睡眠では、7時間の睡眠に比べて死亡リスクが増加するとの報告もあります。

また、睡眠時間が長い人は、「過眠症」になりやすいとの報告もあります。

推奨されている睡眠時間よりも長く眠る人は、質の悪い睡眠を補うために追加的な睡眠時間を必要としていると考えられています。

ただし、質の悪い睡眠は基本的に、長時間眠るだけで埋め合わせすることはできないので、「寝れば寝るほど健康になる」と考えるのは大きな間違いだということです。

≪睡眠に関連するホルモンはどんなものがあるか?≫

ここで、睡眠に関連するホルモンを簡単にまとめてみましょう。

睡眠関連ホルモン➀;成長ホルモン

まずは、成長ホルモンから。

成長ホルモンはその名の通り子供の成長に関与するのはもちろんなのですが、それだけでなく、大人の細胞の増殖や修復、正常な代謝を促進させる働きも持ち合わせております。

具体的には、皮膚や筋肉、骨の形成、傷ついた筋肉や内臓などの体組織の修復、さらに細胞の新陳代謝の促進といった働きです。

睡眠不足になると肌が荒れるのは、皮膚の新陳代謝が進まず、新しい細胞に入れ替わりにくくなるためですね。

成長ホルモンは、「寝入ってから2-3時間後」のタイミングで分泌されます。

最も多く分泌されるのは、最初のノンレム睡眠が訪れたときなのですね。

睡眠関連ホルモン➁;メラトニン

続いて、メラトニンに関して。

「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンは、睡眠を促進し、健康な体を維持するために非常に重要な働きを担っております。

脳内の松果体という器官から分泌されるメラトニンには、体内時計に働きかけて自然な眠りを促進する作用があります。

メラトニンの分泌は、夜間(21時頃)に始まり、深夜3時頃にピークを迎えます。

このメラトニンの分泌量が増えると眠くなり、抑制されて少なくなると目が覚めるというメカニズムですね。

また、メラトニンは、先程出てきました成長ホルモンの分泌を促進するホルモンでもあります。

メラトニンが不足すると、あらゆる病態を引き起こします。

いくつかありますので、順番にみていきましょう。

血管疾患

メラトニンが関係する疾患があり、それがなんと「心血管疾患」なんだと。

質の悪い睡眠によって疾患リスクの増加をきたしてしまうと。

ある報告では、6時間以下の不十分な睡眠しかとっていない人は、しっかり寝ている人と比べて高血圧になるリスクが3倍も高いんだとか。

メラトニンには、血管を保護してきれいに保ち、血管の詰まりの原因となる血栓ができるのを防いで血圧を下げる働きもあると。

ですので、夜間のメラトニン値が低い高血圧患者は、メラトニン量が十分な人に比べ、脈拍と血圧を下げる効果が得られないということになります。

メラトニンの十分な分泌による質の高い睡眠がとれれば、血管や血流にとってもプラスに作用し、結果、心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)のリスクの低減につながるわけですね。

免疫力

続いては、免疫力に関して。

睡眠を促すメラトニンには、ストレスによる免疫力低下を抑制し、感染症に対する抵抗力を高める作用、つまり免疫力を高める働きもあります。

ですので、睡眠不足が続くとメラトニンが十分に分泌されず、免疫力が低下してしまいます。

その結果、ちょっとしたことで風邪を引く、感染症にかかりやすくなる、傷が治りにくい、がんのリスクも高まるなどの悪影響が出てきてしまいます。

がん

メラトニンは誤ってプログラムされた細胞を探し当てる働きをもつといわれております。

睡眠が特定のがんリスクの低減に寄与することは知られていますが、その鍵はメラトニンが握っているのかもしれないというわけです。

腫瘍は活性酸素の多い酸性環境を好みますが、メラトニンはこの活性酸素の除去に貢献していると言われております。

また実際に、メラトニンを摂取すると、化学療法の効果が高まるとの報告もあります。

加えて、メラトニンには、がん細胞を撃退する免疫力を高めると同時に、抗がん剤の使用などによる免疫力の低下を軽減する効果もあります。

老廃物

われわれの体は生活をしていくなかで、日々さまざまな老廃物を作り出しています。

その中でも注意すべき老廃物として、細胞を酸化させる(サビつかせる)作用がある「フリーラジカル」と呼ばれる物質があります。

このフリーラジカルが蓄積すると体内の細胞がサビついてダメージが加えられ、脳卒中や心血管疾患、糖尿病といった重篤な病気の原因になります。

厄介なのは遺伝子までも傷つけられる点です。

細胞内の遺伝子にダメージを与えて変異させることで、正常な細胞ががん化してしまう恐れがあるのです。

ここで一役買ってくれるのがメラトニンになります。

フリーラジカルを分解・無毒化し、取り除く「抗酸化作用」という働きに欠かせない非常に強力な抗酸化力を持っている物質もまた、睡眠ホルモンである「メラトニン」なのです。

メラトニンは自然な睡眠に誘導するだけでなく、眠りに落ちたあとの体内では、免疫力を高め、さらにはフリーラジカルを無害化する作用まで持ち合わせているわけです。

メラトニンを増やす方法

では、実際メラトニンを増やすにはどうすればよいのでしょうか。

メラトニンを増やす方法として、まず筆頭にあげられるのが、「光」ですね。

メラトニンの生成と分泌は、光を浴びた量に大きく左右されることを忘れてはいけません。

そうです。朝の光によって分泌が抑えられ(覚醒)、夜になると分泌が促されるのでしたね。

他には、セロトニン(脳内物質の一種)を増やすこともメラトニンの増加につながります。

メラトニンは「睡眠ホルモン」とも言われているとおり、睡眠に最適な状態に身体を整え、睡眠の質を高めてくれます。

日中に太陽光を浴びる量を増やし、夜に浴びる光の量を減らせば、熟睡を確実にもたらす魔法の方程式に近づけることができます。

夜になっても眠れない現代人が多いのは、メラトニンの分泌タイミングのせいかもしれません。

夜遅くまで電子機器から離れられない人、多いですもんね。

ですので、睡眠負債を返したければ、まずは日中に太陽の光を浴びる時間をできるだけ増やしたうえで、夜には室内の照明を限界まで暗くするようにしましょう。

アイマスクと耳栓を同時に使うと、睡眠中のストレスホルモンが下がり、逆にメラトニンの量が増えていくと言われておりますので、興味がある方は是非。

また、自然環境によるメラトニンレベルの改善は、アウトドアで過ごす時間が長くなるほど効果も高くなるとのことですので、外で過ごす時間を増やしてみるのもいいかもしれませんね。

睡眠関連ホルモン➂;コルチゾール

「コルチゾール」というホルモンは「寝ないと太る」に関わっております。

コルチゾールも睡眠のサイクルに欠かせないホルモンなのですね。

コルチゾールは抗ストレスホルモンと呼ばれ、強いストレスから心身を守ってくれる一方で、寝ている深夜から朝にかけて、体内に蓄積されたブドウ糖を分解したり、脂肪分を燃焼させてエネルギーをつくり出す働きも持っております。

なんとコルチゾールとメラトニンの2つはなぜか、反比例の関係にあるみたいなのです。

どちらかのホルモンが適切なタイミングで生成されるようになれば、もう一方も自然と正常に生成されるようになるみたいです。

すなわち、太陽光を浴びる量を増やせば、コルチゾール分泌の正常なリズムが生まれ、メラトニン分泌のリズムもまた正常になるということになりますね。

≪睡眠関連ホルモンのまとめ≫

ここまで出てきました睡眠に関連するホルモンの効能をまとめておきますね。

睡眠関連ホルモンの効能

・成長ホルモン:体中の傷や痛みを治す

        アンチエイジング効果

        美肌効果

・メラトニン:心筋梗塞や脳梗塞のリスク低減

       ストレスに強くなる

       感染症への抵抗力を高める

       がん細胞を撃退

       老廃物を除去

・コルチゾール:強いストレスから心身を守る

        ダイエット効果

        糖質/脂質/タンパク質代謝を調整

        血糖値の低下を防ぐ

【まとめ】

・睡眠には「細胞のメンテナンス」という、とても重大な役割がある

・平均値に近い7時間睡眠の人に比べて、それより短時間睡眠の人も、逆に長時間睡眠の人も「6年後の死亡率が1.3倍高い」

・7-8時間の睡眠をとっている人に比べ、6時間以下の人の9年後の死亡リスクが、男性では1.8倍、女性では1.6倍

・睡眠時間が10時間以上の長時間睡眠では、7時間の睡眠に比べて死亡リスクが増加する

・成長ホルモンはその名の通り子供の成長に関与するのはもちろん、大人の細胞の増殖や修復、正常な代謝を促進させる働きもある

・メラトニンの不足は、血管疾患、免疫力の低下、老廃物の蓄積などの悪影響をもたらす

・メラトニンを増やす方法

 ;・太陽光を浴びる

  ・セロトニンの摂取を増やす

・コルチゾールは、寝ている深夜から朝にかけて、体内に蓄積されたブドウ糖を分解したり、脂肪分を燃焼させてエネルギーをつくり出す働きもある

【クイズ】

Q1:睡眠不足は体に悪影響をもたらすが、長時間睡眠は悪影響を及ぼさない。〇か×か。

Q2:「成長ホルモン」は大人にも大事なホルモンである。〇か×か?

Q3:メラトニンを睡眠に活かす方法として誤っているのは以下のうちどれか。

 ①日中に光を浴びる ②夜間に光を浴びる ③セロトニンを摂る

回答

Q1の正解:×

 平均値に近い7時間睡眠の人に比べて、それより短時間睡眠の人も、逆に長時間睡眠の人も「6年後の死亡率が1.3倍高い」といわれており、睡眠時間が10時間以上の長時間睡眠では、7時間の睡眠に比べて死亡リスクが増加するとの報告があります

Q2の正解:〇

 成長ホルモンはその名の通り子供の成長に関与するのはもちろん、大人の細胞の増殖や修復、正常な代謝を促進させる働きもありますので、大人にも大事なホルモンです

Q3の正解:③

 夜間に多くの光を浴びてしまうとメラトニンの分泌が抑制されてしまいます

 メラトニンの生成と分泌は、光を浴びた量に大きく左右されますので、お忘れなく

今回は、睡眠障害による体への影響を簡単にみてきました。

また、睡眠に関連したホルモンに関しても簡単にまとめてみました。

次回は、実際の疾患に着目して体への影響をみていきたいと思います。

『健康情報を手に入れて、今日も健やかに楽しく過ごしていきましょ~。ではまた。』

参考文献

『よく眠るための科学が教える10の秘密』リチャード・ワイズマン著

『スタンフォード式 最高の睡眠』西野 精治著

『賢者の睡眠 超速で脳の疲れを取る』メンタリストDaiGo著

『一流の睡眠』裴 英洙著

『睡眠こそ最強の解決策である』マシュー・ウォーカー著

『世界の最新論文と450年企業経営者による実践でついにわかった 最強の睡眠』西川 ユカコ著

『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』ショーン・スティーブンソン著

『最高の体調』鈴木 祐著

『ぐっすり眠る習慣』白濱 龍太郎著

『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』ニック・リトルヘイルズ著

『Sleep,Sleep,Sleep』クリスティアン・ベンディクト著 ミンナ・トゥーンベリエル著

『最高のリターンをもたらす超・睡眠術 30のアクションで眠りの質を高める』西野 精治著 木田 哲生著

『不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる』鈴木 祐著

『眠る投資 ハーバードが教える世界最高の睡眠法』田中奏多著

『熟睡者』クリスティアン・ベンディクト著 ミンナ・トゥーンベリエル著

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