睡眠障害による体への影響 Part3

睡眠

今回は、前回に引き続き睡眠障害による体への影響を具体的な疾患に着目しながらみていこうかと思います。

≪睡眠不足と生殖機能≫

睡眠は男女の生殖機能にとって欠かせないものになってきます。

まずは、男性から。

[男性]

前回もお話させていただきましたが、睡眠不足は男性におけるテストステロンの減少につながります。

テストステロンの少ない男性は、1日を通して倦怠感が抜けません。

テストステロンと脳の集中力の間には大きな関係があるので、仕事中も目の前の作業に集中することができないわけですね。

また、寝不足の男性は、十分に寝ている男性に比べ、睾丸のサイズが大幅に小さいとの報告もあります。

続いて、女性に関して。

[女性]

日常的に睡眠時間が6時間以下の人は、卵胞刺激ホルモンの量が20%減少すると言われています。

また、妊娠しても、睡眠時間が慢性的に8時間未満の女性は、日常的に8時間以上寝ている女性に比べ、妊娠3ヶ月以内に流産する確率がかなり高いとも言われております。

これから妊娠を考えている方や、現在妊娠中の方などは、より積極的に睡眠に関わってみてください。

≪睡眠不足と免疫機能≫

続いては、免疫との関係もみていきましょう。

眠りの質が悪ければ、免疫細胞の力も弱まります。

夜の睡眠が妨げられたり、短すぎたりすると、免疫系の細胞である樹状細胞とT細胞の間の情報交換がうまく行われず、結果として免疫反応が低下してしまうわけです。

また、睡眠不足が続くと体内でウイルス抗体がつくられるスピードが遅くなることもわかっております。

またいくつか研究結果の報告を。

・ウイルスにさらされるまでの1週間の睡眠時間が短いほど、感染して風邪をひく確率が高くなる

・2014年のカリフォルニア大学の研究では、睡眠時間が6時間以下の人は、7時間を超える人よりも風邪ウイルスの感染率が4倍以上高い

十分な睡眠がとれなかったあとは、感染症にかかりやすくなることがわかりますね。

未病を大病にしないために、いい睡眠は不可欠だということです。

睡眠を甘く見ると、あらゆる病気にかかりやすくなるので、睡眠にあまり興味関心のない人は、改心した方が今後のためにもいいかもですね。

予防接種の前には十分な睡眠を

予防接種を受けるまでの1週間で平均して4時間から6時間しか寝ていなかった場合、抗体をつくる能力が通常の半分以下まで落ちている、なんて研究結果があります。

またある研究では、ワクチンを接種した夜に睡眠をとらなかった被験者は、肝炎に対する抗体と免疫細胞の形成が少なかったとの報告も。

ワクチンを接種したときにいちばん大切なのは、とにかくぐっすり眠ることだと言えますね。

≪睡眠不足とガン≫

がんをもたらす外的要因としては、睡眠不足と睡眠・覚醒リズムの乱れの慢性化(たとえば夜のシフト勤務など)が挙げられます。

睡眠が6時間以下の人は、7時間以上の人に比べ、ガンにかかる確率が40%も上昇してしまうんだとか。

実際に研究でも、

・ナチュラルキラー細胞が、8時間たっぷり眠った時と比べ、じつに70%も少なくなった

・寝不足のマウスは、ガンが成長する速度も大きさも、十分に睡眠をとったマウスと比べて200%増加

など、恐ろしい研究結果が出ております。

他にも、約24万人の日本人女性を調べたコホート研究では、平均睡眠が6時間以下の女性は乳がんの発症率が激増したことがわかりました。

また、6時間以下の睡眠で、乳がんだけでなく前立腺がんの罹患リスクが増加するとも言われておりますので、男女ともにがんのリスクは上がりそうです。

「睡眠不足はガン細胞を成長させる」と考えた方がいいかもですね。

メラトニンとがん

睡眠に関連するホルモンとして頻出のメラトニンですが、がんとも関連があるそうです。

メラトニンには、新しい血管の成長を抑制することで、がんの計画に歯止めをかける作用もあるんだとか。

ある研究で、メラトニンの分泌レベルが高い男性は、低い男性より進行性の前立腺がんを発症する割合が75%低いことがわかったと。

睡眠時に多くつくられるメラトニンに、性ホルモンの分泌を抑制する働きがあることと関係があるのかもしれませんね。

シフト勤務の不平等

ここで、「シフト勤務」に着目して少しまとめてみたいと思います。

僕自身もシフト勤務をしたことがあるので分かりますが、辛いですよね。

夜中は眠いのに眠れない、その影響で日中は眠すぎて何も手につかない。

踏んだり蹴ったりって感じです。

体感でも分かりますが、やはり実際に研究でもシフト勤務の危険さは多数報告されております。

シフト勤務で、夜勤のある労働者、つまり概日リズムと睡眠パターンが日常的に乱れている人たちは、各種のガンを発症する確率が大幅に高くなることがわかっています。

先程も出てきましたが、「乳がん」「前立腺がん」に関しての報告をいくつか。

・夜間シフトで働いていた女性の方が、そうでない女性に比べて乳がんの発症率が30%高く、かつ夜間シフトに入っていた年数が長いほど、ガンを発症する確率が増大した

・シフト勤務者についていると、女性の場合は乳がんのリスクが50%、男性の場合は前立腺がんのリスクが20%高まる

遅くまで起きている日々を繰り返し、深夜に働くことは、鉛による汚染や紫外線Aを浴びることと同等の発がん性要因と表現している人もいるくらいです。

また、シフト勤務の勤務期間も大事な側面みたいです。

7万人以上の夜間勤務の女性看護師を22年間にわたって調査した結果では、シフト制の夜間勤務を5年以上続けた人は、寿命が短くなる傾向があり、心臓病で死亡する確率が上がった。

また、シフト制の夜間勤務を15年以上続けた人は、肺がんで死亡する確率が上がった。

とのこと。

この報告に補足的な研究結果もお示ししておきます。

夜間に仕事をする人は、日中に仕事をする人に比べ、心血管疾患を発症するリスクが17%高く、シフト勤務を5年続けるごとにリスクがさらに7.1%ずつ増していく

とのこと。

これらの報告を見る限り、両親または祖父母に心血管疾患の既往歴がある場合には、就業時間が不規則な仕事はできるかぎり避けるべきなのかもしれませんね。

また、夜間勤務のみの人に比べて、働く時間が変動するシフト勤務のほうが問題が多いこともわかっているみたいです。

日中働いたかと思えば、夜間働くなんて勤務体制もざらにありますが。

勤務体制はなかなか選べないかとは思いますが、夜なら夜だけ働く方が、健康にはいいみたいですね。

ですが、シフト勤務者でも諦めるのはまだ早い。

ここでいくつか対策法も載せておきますね。

実践するのも簡単ではないですが、今後の健康を考えて是非取り入れてみてください。

まずは、食事と運動ですね。

シフト勤務者は肥満のリスクが高いので、健康的な食事と運動を心掛けることが大切になってきます。

また、食事に関しては、

21時以前に食事を摂る、または夕食から少なくとも2時間空けて就寝すると前立腺がんのリスクが26%、乳がんのリスクが16%低下する

との報告がありますので、夜間勤務でない日は、ここら辺に注意して睡眠をとってみてください。

シフト勤務で社会貢献してくれている方々には頭が上がりません。

感謝しかありません。

夜間に働いてくれている人がいるから世の中が何事もなく回っているのは周知の事実。

「日々ありがとうございます。そしてご苦労様です。」と簡単ではありますが、書かせていただきます。

≪睡眠不足とDNA≫

睡眠不足はDNAにも影響を与え、生命の基本である遺伝子までも蝕みます。

マウスをつかった実験で、たった1日でも睡眠不足の状態にすると、遺伝子の活動は200%も下落することがわかっています。

また睡眠不足が短期間続くだけで、遺伝子内にエピジェネティック変異が起こる可能性もあることがわかっています。

(エピジェネティック変異とは、体細胞内の重要なプロセスに直接的な変化が生じるということ)

以前にもテロメアのお話はさせていただいたのですが、年齢を重ねるにつれてテロメアはすり減っていき、最終的には消えてなくなり、細胞の分裂が止まります。

このテロメアを縮めるスピードを加速させる最大の要因は寝不足だと言われています。

実際に、5時間睡眠の人と7時間睡眠の人では、テロメアの老化の具合が違うことがわかっており、5時間睡眠の人は、実年齢よりかなり「老けて」しまうとのこと。

ただし、ライフスタイルを改善すれば、テロメアの強化を図ることができるので、諦めずにライフスタイルの改善に取り組みましょう。

また、睡眠不足は時計遺伝子にも影響をもたらすと。

たった1晩十分に睡眠をとらなかっただけで、「クロノ・プロテイン(時計タンパク質)」と呼ばれるタンパク質を作る遺伝子に、エピジェネティック変異が見られたことがわかっています。

時計タンパク質の生産と私たちの24時間のリズムとの間にずれが生じると、代謝障害につながりかねず、肥満や2型糖尿病といった病気のリスクを高める可能性があります。

≪睡眠不足と腸内細菌≫

腸内フローラもまた、睡眠・覚醒リズムに支配されております。

以前にも書かせていただきましたが、睡眠不足は、善玉菌「バクテロイデス門」に対する悪玉菌「フィルミクテス門」の割合を高めることで、肥満を導きます。

≪睡眠不足と美容≫

睡眠不足が連日続いて、肌がカサカサになったり脂っぽくなったりしてしまった経験のある人は少なくないかと。

2008年のウィスコンシン大学が行った調査では、睡眠が少ない人ほど慢性的な肌トラブルが多く、同時に不安やうつ症状を抱えているケースも多かったと報告されております。

逆に、良く寝ている人は紫外線のダメージにも強く、傷の治りも早かったとの報告もありますので、しっかり眠れば問題はございません。

この「美」に関係しているのが、頻出ですがまたまた再登場の「成長ホルモン」です。

成長ホルモンは肌代謝を活性化し、しわやくすみを発生しにくくする作用もあるので、美しい肌を保ちたいなら、よく眠ることが大事になってきますね。

入眠から4時間以内に訪れる深睡眠のあいだに成長ホルモンが活発に分泌されますので、

美しさを睡眠にも求める人は、睡眠の質も大事にしていきましょう。

何時に寝たかを問わず4時間以内に深睡眠状態になれば十分に効果を得られるみたいですよ。

【まとめ】

生殖機能

・睡眠不足は男性におけるテストステロンの減少につながり、テストステロンの少ない男性は、1日を通して倦怠感が抜けない

・日常的に睡眠時間が6時間以下の人は、卵胞刺激ホルモンの量が20%減少する

・妊娠しても、睡眠時間が慢性的に8時間未満の女性は、日常的に8時間以上寝ている女性に比べ、妊娠3ヶ月以内に流産する確率がかなり高い

免疫機能

・睡眠時間が6時間以下の人は、7時間を超える人よりも風邪ウイルスの感染率が4倍以上高い

・予防接種を受けるまでの1週間で平均して4時間から6時間しか寝ていないと、抗体をつくる能力が通常の半分以下まで落ちる

がん

・がんをもたらす外的要因としては、睡眠不足と睡眠・覚醒リズムの乱れの慢性化(たとえば夜のシフト勤務など)が挙げられる

・6時間以下の睡眠で、乳がん、前立腺がんの罹患リスクが増加する

・メラトニンには、新しい血管の成長を抑制することで、がんの計画に歯止めをかける作用もある

・シフト勤務で、概日リズムと睡眠パターンが日常的に乱れている人たちは、各種のガンを発症する確率が大幅に高くなる

・シフト勤務者についていると、女性の場合は乳がんのリスクが50%、男性の場合は前立腺がんのリスクが20%高まる

・21時以前に食事を摂る、または夕食から少なくとも2時間空けて就寝すると前立腺がんのリスクが26%、乳がんのリスクが16%低下する

DNA

・テロメアを縮めるスピードを加速させる最大の要因は寝不足

・時計タンパク質の生産と私たちの24時間のリズムとの間にずれが生じると、代謝障害につながりかねず、肥満や2型糖尿病といった病気のリスクを高める

腸内細菌

・睡眠不足は、善玉菌「バクテロイデス門」に対する悪玉菌「フィルミクテス門」の割合を高めることで、肥満を導く

美容

・睡眠が少ない人ほど慢性的な肌トラブルが多く、同時に不安やうつ症状を抱えているケースも多かった

・良く寝ている人は紫外線のダメージにも強く、傷の治りも早い

・成長ホルモンは肌代謝を活性化し、しわやくすみを発生しにくくする作用もある

【クイズ】

Q1:睡眠不足によって、分泌が減少するホルモンは以下のうちどれか。

 ①テストステロン ②コルチゾール ③グレリン

Q2:睡眠不足や睡眠の質の悪さはがんの発生に関係しない。〇か×か?

Q3:美しくなりたい人は、よく眠るべき。〇か×か。

回答

Q1の正解:①

 睡眠不足は男性におけるテストステロンの減少につながります

 ②③はともに睡眠不足で増加するホルモンの代表ですね

Q2の正解:×

 関係ありありです

 特にシフト勤務者であると、女性の場合は乳がんのリスクが50%、男性の場合は前立腺がんのリスクが20%高まるなんて報告もあります

Q3の正解:〇

 成長ホルモンは肌代謝を活性化し、しわやくすみを発生しにくくする作用もありますので、しっかり眠って成長ホルモンの作用を存分に受けましょう

今回は、睡眠障害による体への影響を実際の病態に着目してみてきました。

次回は、人間関係への影響をみていきたいと思います。

『健康情報を手に入れて、今日も健やかに楽しく過ごしていきましょ~。ではまた。』

参考文献

『よく眠るための科学が教える10の秘密』リチャード・ワイズマン著

『スタンフォード式 最高の睡眠』西野 精治著

『賢者の睡眠 超速で脳の疲れを取る』メンタリストDaiGo著

『一流の睡眠』裴 英洙著

『睡眠こそ最強の解決策である』マシュー・ウォーカー著

『世界の最新論文と450年企業経営者による実践でついにわかった 最強の睡眠』西川 ユカコ著

『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』ショーン・スティーブンソン著

『最高の体調』鈴木 祐著

『ぐっすり眠る習慣』白濱 龍太郎著

『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』ニック・リトルヘイルズ著

『Sleep,Sleep,Sleep』クリスティアン・ベンディクト著 ミンナ・トゥーンベリエル著

『最高のリターンをもたらす超・睡眠術 30のアクションで眠りの質を高める』西野 精治著 木田 哲生著

『不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる』鈴木 祐著

『眠る投資 ハーバードが教える世界最高の睡眠法』田中奏多著

『熟睡者』クリスティアン・ベンディクト著 ミンナ・トゥーンベリエル著

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