今回は、睡眠障害による脳への影響に関してみていこうと思います。
【睡眠障害による脳への影響】
睡眠の脳への役割
まずは、睡眠が脳にもたらす役割についてみていこうと思います。
睡眠の持つ重要な役割のひとつに挙げられるのが「脳のデトックス」。
眠っている間は、脳の老廃物を排出する時間であり、脳内では「大掃除とゴミ回収」が行われています。
私たちの体内には細胞に酸素や栄養を運び、細胞から排出された老廃物を回収する役割を持つ「リンパ系」が張り巡らされているのですが、脳にはこのリンパ系が存在しません。
そのため、代わりにリンパ系と同様の働きをする「グリンパティックシステム」という老廃物回収・除去プロセスが稼働しています。
グリンパティックシステムとは、脳内に脳脊髄液(CSF)という液体を循環させて老廃物を洗い流す機能のことです。
このシステムをつかさどるのが脳内にあるグリア細胞になります。
グリア細胞は神経細胞の状況をモニターしながら、グリア細胞同士で情報をやりとりし、神経細胞のシナプス形成をコントロールしているのだそう。
眠っている間、グリンパティックシステムの活動は目覚めているときの10倍以上も活発になるといわれています。
眠っている間は脳細胞が約60%縮小するため、脳脊髄液が流れやすくなり、老廃物を除去する効率はさらに高まるみたいです。
睡眠を奪うことは、「清掃隊員」たちの仕事を奪うことになる
睡眠中に脳内の大掃除が行われると、さきほどお伝えしました。
なので、睡眠時間が短かったり、眠りが浅かったり、途中何度も目が覚め睡眠が断片化したりすると、「清掃隊員」たちはその任務を満足に果たすことができなくなります。
動物を使った実験では、動物を夜中に突然起こすと、睡眠中の清掃プロセスの約95%が未完に終わるということもわかっています。
つまり、睡眠を十分とらず、そのために脳内のゴミが除去されずに老廃物が蓄積されると、脳の老化が早まり、ダメージを受けやすくなってしまうということ。
脳の中でも特に重要な「前頭葉(大脳の前側、耳の前からおでこのあたり)」に大きな影響がでてしまうんだとか。
これは長期的に見ると、重要な神経細胞のつながりが損なわれ、記憶障害や最悪の場合は認知症の発症を引き起こしかねないわけです。
睡眠不足がもたらす影響
睡眠不足になると、脳にどのような影響が出てくるのでしょうか。
さまざまな報告がされていますので、実際に見ていきましょう。
1日のみの徹夜であれば、脳に影響はないと正直思っていたのですが、実際はしっかりと悪影響が出てしまうみたいです。
たった1日徹夜しただけで、その後の4日間は脳にダメージが残ると言われています。
寝ないことは軽度の脳損傷を起こしていることと同じなんだとか。
たった1晩の寝不足でも、人間の脳には大きな負担がかかり、アルツハイマー病など、脳の病気の診断で用いられるバイオマーカーの値が上昇するともいわれております。
では、徹夜ではないけれど、短時間睡眠が数日間続いてしまった場合はどうなのでしょうか。
僕はこれも、睡眠はしているのだからそんなには大きな影響が出ないと思っていたのですが、やはり現実は厳しかったようです。
わずか2、3日でも睡眠時間が7時間以下になると、脳の活動は不活発になるといわれております。
7時間以下の睡眠が10日続くと、脳の働きは24時間起きていたときと同じレベルにまで低下すると。
さっきの軽度の脳損傷と同レベルになってしまうということですね。
さらに短い睡眠時間の結果もみていきましょう。
6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は2日間徹夜した状態とほぼ同じレベルにまで衰えてしまうと。
やはり、睡眠不足による影響は侮れないですね…。
睡眠不足がパフォーマンス低下につながる
睡眠の時間と質の不足は、仕事上の成果であれ家事であれ、つねに生産性の低下をともなうことが証明されています。
しかも、作業能力低下の程度は眠気の程度からは予測できないんだとか。
実際に行われた医師に対する調査では、睡眠不足の医師は、十分な睡眠をとった医師に比べて業務を完了させるのに14%長くかかり、ミスをする確率は20%以上高かったということがわかっています。
睡眠不足は長期的な悪影響のみならず、短期的にもマイナスの効果をもちます。
睡眠不足は、集中力や創造性の欠如、衝動的な反応、記憶力の低下を招くため、睡眠を十分にとれなかった日は、学校や仕事でのパフォーマンスが低下します。
他にも、実行機能(感情や思考、行動をコントロールする精神機能;認知制御とも言われる)も損なわれるため、状況を把握し、適切なタイミングに適切な判断をくだすのが困難になります。
睡眠不足は飲酒運転と同じ!?
寝不足の状態で運転して危ない目にあったことある人いませんか?
なんと睡眠不足の状態で運転することは、飲酒運転と同じくらい危険なんだとか。
いくつかの報告がありますので、みてみましょう。
アルコールを1滴も飲んでいなくても、真夜中に車を運転して帰宅する頃は、飲酒運転と同じような状態になっていると。
パフォーマンスの急激な低下が始まるのは、起きている時間が15時間を過ぎた時点と言われているので、日付を越えた真夜中に運転することは超危険ということですね。
他にも、目覚めてから17時間が経つと、日本酒1合を飲んだ程度まで脳の反応性が低下し、ミスが起こりやすくなるともいわれております。
他には、徹夜した人の脳の働きは、酎ハイを7-8杯飲んで酔った状態とも。
他には、睡眠不足の人の運転能力も、血中アルコール濃度が0.1%の人と同程度に低下する、なんてものも。
素面で睡眠不足のドライバーと、睡眠は足りているが酔っているドライバーは、イコールということですね。
では、実際に事故を起こす危険はどの程度なのでしょうか。
これも衝撃的な数値が出てしまっております。
睡眠が5時間未満になると、自動車事故を起こす危険は3倍。睡眠が4時間以下になると、事故を起こす危険は11.5倍。
もうこれは、睡眠不足も取り締まらなきゃいけないレベルですよね。
【まとめ】
・睡眠の持つ脳への重要な役割が「脳のデトックス」
・脳では、「グリンパティックシステム」という老廃物回収・除去プロセスが稼働
・睡眠を十分でなく、脳内に老廃物が蓄積されると、脳の老化が早まり、ダメージを受けやすくなる
・たった1日徹夜しただけで、その後の4日間は脳にダメージが残る
・睡眠の時間と質の不足は、生産性の低下をともなう
・睡眠不足の状態で運転することは、飲酒運転と同じくらい危険
【クイズ】
Q1:脳にも全身と同様のリンパ系が存在する。〇か×か。
Q2:一晩であれば徹夜は脳に悪影響を及ぼさない。〇か×か?
Q3:睡眠不足の状態で運転することは、飲酒運転と同じくらい危険。〇か×か。
回答
Q1の正解:×
脳には全身のようなリンパ系が存在しないため、「グリンパティックシステム」という老廃物回収・除去プロセスが稼働しています
Q2の正解:×
たった1日徹夜しただけで、その後の4日間は脳にダメージが残るといわれています
Q3の正解:〇
睡眠が5時間未満になると、自動車事故を起こす危険は3倍
睡眠が4時間以下になると、事故を起こす危険は11.5倍 といわれています
今回は、睡眠障害による脳への影響に関してみてきました。
次回は、睡眠不足が脳に影響することで、実際にどのような症状が出てくるのかをみていきたいと思います。
『健康情報を手に入れて、今日も健やかに楽しく過ごしていきましょ~。ではまた。』
参考文献
『よく眠るための科学が教える10の秘密』リチャード・ワイズマン著
『スタンフォード式 最高の睡眠』西野 精治著
『賢者の睡眠 超速で脳の疲れを取る』メンタリストDaiGo著
『一流の睡眠』裴 英洙著
『睡眠こそ最強の解決策である』マシュー・ウォーカー著
『世界の最新論文と450年企業経営者による実践でついにわかった 最強の睡眠』西川 ユカコ著
『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』ショーン・スティーブンソン著
『最高の体調』鈴木 祐著
『ぐっすり眠る習慣』白濱 龍太郎著
『世界最高のスリープコーチが教える 究極の睡眠術』ニック・リトルヘイルズ著
『Sleep,Sleep,Sleep』クリスティアン・ベンディクト著 ミンナ・トゥーンベリエル著
『最高のリターンをもたらす超・睡眠術 30のアクションで眠りの質を高める』西野 精治著 木田 哲生著
『不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる』鈴木 祐著
『眠る投資 ハーバードが教える世界最高の睡眠法』田中奏多著
『熟睡者』クリスティアン・ベンディクト著 ミンナ・トゥーンベリエル著
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